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高松高等裁判所 平成10年(ラ)109号 決定 1999年3月18日

抗告人

北条市農業協同組合

右代表者代表理事

村上光夫

右代理人弁護士

五葉明徳

相手方

忽那孝美

右代理人弁護士

西嶋吉光

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原決定及び松山地方裁判所が同庁平成一〇年(ヨ)第一六九号仮処分命令申立事件について同年八月二一日にした仮処分命令を取り消す。相手方の本件仮処分命令申立てを却下する。」との裁判を求め、その理由として、根抵当権の被担保債権が一定の種類の取引によって生じる債権とされた場合には、根抵当権設定前から存在した債権(以下「既存債権」という。)も右の種類の債権に該当する限り、特別の合意を要することなく当然に右根抵当権の被担保債権となると解すべきであるにもかかわらず、既存債権を根抵当権の被担保債権とするにはその旨の合意を必要とするとした原決定は、根抵当権に関する法令の解釈を誤ったものであり、したがって、相手方において本件貸付に係る元金八〇〇万円並びに未払利息及び期限の利益喪失後の遅延損害金の合計八五九万二七六五円を弁済供託したことによっては、本件根抵当権の被担保債権全部を消滅させるには足りないから、これが消滅したことを理由に、本件根抵当権の実行及び譲渡その他一切の処分禁止を命じた本件仮処分命令は不当である旨主張した。

二  当裁判所も、相手方に四〇万円の担保を立てさせた上抗告人に対して本件仮処分を命じたのは相当であり、これを認可すべきものと判断する。その理由は次のとおり補正するほか、原決定の理由説示と同じであるからこれを引用する。

1  原決定九頁二行目の次に改行して「3 仮に、既存債権を根抵当権の被担保債権に含ませないためには、その旨の合意が必要であるとしても、既存債権については他の不動産について極度額二三〇〇万円とする根抵当権が設定されており、本件根抵当権設定契約当時、別件貸付債権の担保を本件根抵当権に求める必要はなく、別件貸付債権はもっぱら既存の担保不動産及び保証人によって担保されるものであって、別件貸付債権を本件根抵当権の被担保債権に含ませないとの合意があった、というのが本件根抵当権設定契約の当事者である抗告人と相手方の意思であったというべきである。」を加える。

2  同一一頁八行目の「いなかった」の次に「し、俊子からも抗告人との金融取引の内容を聞かされていなかったため、当時、抗告人が俊子又は忽那海運に対し、別件貸付債権を有していたことを全く知らなかった」を加える。

3  同一三頁三行目から同一七頁九行目までを次のとおり改める。

「二 まず、相手方は、本件根抵当権は、実質的には本件貸付債権だけを担保する普通抵当権である旨主張するが、一件記録によれば、本件根抵当権設定契約は、冒頭に「根抵当権設定契約証書」と明記された所定の様式の契約書であり、相手方は右契約書に署名・押印して契約を締結したものであって、特段の反証のない本件のおいては、相手方は本件土地に設定される担保権が普通抵当権ではなく根抵当権であることを理解していたものと認めることができるから、相手方の右主張は採用できず、本件根抵当権は実際も根抵当権であると認めるほかはない。

三  次に、既存債権である別件貸付債権が本件根抵当権の被担保債権に含まれるか否かについて判断する。

前記一の認定のとおり、抗告人は、本件根抵当権設定契約当時、俊子を主債務者とする残元金一一四七万四二九五円及び利息・損害金の別件貸付債権を有していたものであるが、相手方は、俊子からは抗告人から本件貸付である八〇〇万円の融資を受けるにつき本件土地を担保提供してもらいたい旨依頼されたのみで、別件貸付債権の存在については何ら知らされていなかった上、本件根抵当権設定契約締結に際し、抗告人の契約担当者からも別件貸付債権の存在及びこれが本件根抵当権の被担保債権に含まれる旨の説明を一切されず、また、本件根抵当権の極度額は、本件貸付の元金八〇〇万円の二割増である九六〇万円と定められたというのであって、右事実によれば、抗告人は、本件根抵当権設定契約当時、別件貸付債権の存在すら知らず、もちろん別件貸付債権を本件根抵当権の被担保債権に含ませる意思を有していなかったことは明らかである。

ところで、根抵当権の被担保債権の範囲は、根抵当権設定契約における当事者の合意によって定まるものであり、当事者の意思を離れて決定されるものではないことは、約定担保物権である根抵当権の性質上当然であるところ、根抵当権設定契約において、根抵当権の被担保債権の範囲を一定の種類の取引によって生じる債権と定め、かつ、右契約当時、客観的には右範囲に属する債権が存在していたとしても、そもそも根抵当権設定者において既存債権の存在を知らないまま債権者と根抵当権設定契約を締結したときは、既存債権を被担保債権とする旨の合意が成り立つ余地はないというべきである。右説示に反する抗告人の主張は理由がない。」

三  よって、右判断と同旨の原決定は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 田中俊次 裁判官 村上亮二)

別紙物件目録<省略>

別紙登記目録<省略>

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